喫茶店と待ち行列。Coffee Shop and Queue.

 当社の特徴である、ORや統計学等の科学的理論にもとづく生産管理技術。今回は、そのORのなかの、「待ち行列理論」を使用し、喫茶店の会計で作られる行列について検討したいと思います。

 

結論からお話しします。


「会計係の会計処理のスピードは、客の待ち時間に大きな影響を与えうる。しかし、接客はスピードとコミュニケーションのバランスが大事。」


 一般社会には、スーパーマーケットのレジ高速道路のインターチェンジ等、様々な場所で何かを待つ行列ができるところがあります。その行列を「待ち行列」と言います。

 

 最近の喫茶店の多くはセルフサービスであり、客はコーヒー一杯を注文する場合、会計に行きます。その際、他に誰もいなければ、全く待たず、待ち行列もできません。他の一人が会計処理を受けているときにそこに行けば、その人の会計処理が終わるまで待ちます。つまり待ち時間が発生します。そして待っている間、待ち行列が発生します。

 

 さて単位時間あたりに会計に来客する人数(以下、到来速度と呼ぶ)をλ(ラムダ)(人/単位時間)、単位時間あたりに一人の会計係の人が担当できる客の人数(以下、サービス速度と呼ぶ)をμ(ミュー)(人/単位時間)とします。そしてρ(ロー)(単位なし)をトラフィックデンシティー(交通密度)と呼び、ρ=λ / μとします。

 

 あるセルフサービスの喫茶店があるとします。ここで単位時間を1分とします。そのお店は、朝10時から夜8時まで10時間、オーダーを受け付けるとします。ある1日における12:00-12:30の客の到来数を分で平均すると、この日のこの時間帯の到来速度λになります。では、次の日に、同じ時間帯において、各分ごとの到来数はλとは限りません。この、ある時間帯で、各分で何人の客が到来するか。この「到来のしかた」は確率論では色々なモデルで考えられるのですが、今回は細かい説明なしで、喫茶店の特性から、「ポアソン分布」という確率モデルを使用します。

 

 次に、上記の到来速度λを算出した日に、ある会計係が、上記と同じ12:00-12:30という時間帯において1人で会計処理をしたとします。この時間帯に客の会計処理にかけた合計時間から、単位時間(1分)当たりの担当できる客数の平均をとると、前述のサービス速度μになります。一人ひとりの客に、どのくらいの時間をかけるか。この「時間のかけかた」も確率論では色々なモデルで考えられます。今回は、これも細かい説明なしに、「指数分布」という確率モデルを使用します。

 

 対象時間:12:00-12:30

 「到来のしかた」:ポアソン分布

 到来速度:λ

 「時間のかけかた」:指数分布

 サービス速度:μ

 同時にいる会計係の人数:1人

 

 再度、細かい説明はなしに、これらにより、12:00-12:30の時間帯に一人の客が会計に行ったときの、待ち行列の人数の平均値と待ち時間の平均値が以下のように算出できます。

 

 待ち行列の人数の平均値 = ρ / (1-ρ)

 待ち時間の平均値 = ρ / μ(1-ρ)

 

 例えば、

 上記のお店で12:00-12:30の30分の時間帯に30人の客が到来する場合、平均すると、1分間あたりに到来する客の数が1人(つまり、平均すると60秒に1人到来する)であり、λ = 1(人/分)となります。次に、会計係がこの30分に客の会計処理に合計で10分間、つまり600秒費やす場合、平均すると客1人に費やす会計処理の時間は 1 / 3 分、つまり20秒です。つまり、平均すると、1分間あたりに担当できる客の数は3人であり、μ = 3(人/分)となります。すると、ρ = λ / μ = 1 / 3となります。したがって、

 

 待ち行列の人数の平均値 = ρ / (1-ρ) = 1 / 2 (人)

 待ち時間の平均値 = ρ / μ(1-ρ) = 1 / 6 (分)

 

となります。よって、待ち行列は、およそ1 / 2(人)くらい。待ち時間は、およそ1 / 6分、つまりおよそ10秒くらい

 

 主観は人それぞれですが、12:00-12:30の昼時に並ぶ側の客は、このくらいの状況ですと、それほど待つ感じがしない場合が多いのではと思います。


 しかし、 客1人の会計処理にかける平均時間が150%に増加し、30秒となった場合、待ち行列はどうなるか。まず、μ = 2 (人/分) とサービス速度が67%に低下し、ρ = λ / μ = 1 / 2となります。したがって、

 

 待ち行列の人数の平均値 = ρ / (1-ρ) = 1 (人)

 待ち時間の平均値 = ρ / μ(1-ρ) = 1 / 2 (分)

 

となります。よって、待ち行列は、およそ1 (人)くらい。待ち時間は、およそ1 / 2分、つまりおよそ30秒くらい。すなわち、客1人の会計処理にかける時間を20秒から30秒に増加すると、客の待ち時間は10秒から30秒に増加します。このように、会計処理の時間が少し変化すると、待ち時間は大きく変化します。

 

 経営戦略上、待つ負担により客に不快感を持たせないように、店員の会計処理の時間(秒数)を計算しているところも多いようです。(ただし、待つ時間を減らす方法は、他にも各種あります。)

 

 しかし、客の待つ負担を重視して、ハイスピードで淡々とした接客になるよりも、客とのコミュニケーションを重視して、客にまた来ようと思わせるような、昔ながらの接客の方が、個人的には肌に合います。結局のところ、スピードとコミュニケーションのバランスが大事なのかもしれません。

 

  また、次回、乞うご期待。


 

 




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